東京高等裁判所 平成5年(行ケ)225号 判決
愛知県小牧市大字北外山字下小菅4203番地の1
原告
東海化成工業株式会社
同代表者代表取締役
野口廸宏
愛知県小牧市大字北外山字哥津3600番地
原告
東海ゴム工業株式会社
同代表者代表取締役
大北勝彦
上記両名訴訟代理人弁理士
中島三千雄
同
神戸典和
同
池田治幸
同
笠井美孝
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 高島章
同指定代理人
堀泰雄
同
増山剛
同
田中靖紘
同
市川信郷
同
関口博
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら
「特許庁が平成3年審判第22207号事件について平成5年10月27日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告らは、昭和56年1月16日、名称を「芯材付発泡製品の製造法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和56年特許願第5806号)をしたが、平成3年9月27日拒絶査定を受けたので、同年11月20日審判を請求した。特許庁は、同請求を平成3年審判第22207号事件として審理し、平成4年11月16日に特許出願公告した(平成4年特許出願公告第71690号)が、特許異議の申立てがあり、平成5年10月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年11月27日原告らに送達された。
2 本願発明の要旨(特許請求の範囲第1項記載のもの)
上型及び下型からなる発泡成形金型を使用して、該金型内に所定の芯材をセットし、発泡材料を発泡せしめることにより、該芯材の一方の側に発泡体層を一体的に形成せしめた芯材付発泡製品を製造するにあたり、該芯材の前記発泡体層が形成される側の面に被着して該芯材を覆う被膜を存在せしめると共に、該被膜の周縁を上型と下型にて挟持して、前記発泡材料の発泡を行ない、該被膜を介して所定の発泡体層を該芯材の一方の側に一体的に形成することを特徴とする芯材付発泡製品の製造法。(別紙図面1の第6図ないし第10図参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(2) これに対して、本出願前頒布された刊行物である特公昭48-30136号公報(以下「引用例」という。)には、「ファンデーションの表面を合成樹脂の薄膜で密接状に覆い且そのファンデーションの周縁に上記合成樹脂の薄膜を延長させたものの外面に予め成形した表皮シートを間隔を設けて配置して発泡空間を形成させ該空間内に発泡性の合成樹脂原液を注入し発泡させることを特徴とする自動車のインストルメントパネル等のクラッシュパッドの成形方法。」に関する発明が記載されている。(別紙図面2参照)
(3) 本願発明と引用例に記載された発明とを比較すると、両発明は、車両内装部品である芯材付発泡成形品の製造に際し、芯材裏面に発泡材料が侵入して処理の困難なバリ(はみ出し部分)となることを防止するために、芯材を被膜で覆うという、発明の目的及びそのための技術的手段の基本的な考え方は同じであり、引用例における「ファンデーション」、「合成樹脂の薄膜」は、それぞれ本願発明の「芯材」、「被膜」に相当し、被膜(薄膜)を芯材(ファンデーション)の発泡体層側に被着する(密接状に覆う)ことも同じであると認められるから、結局両発明は、(1)本願発明が上型及び下型からなる発泡成形金型を使用して成形するものであるのに対して、引用例にはこの点が明確に記載されていない点(相違点(1))、(2)本願発明が被膜の周縁を上型と下型とで挟持するのに対して、引用例にはこの点に関して記載されていない点(相違点(2))で相違し、その他の点では一致しているものと認められる。
(4) これらの相違点について検討する。
〈1〉 相違点(1)について
車両内装部品である芯材付発泡成形品を製造するためには、上型及び下型からなる発泡成形金型を使用して、該金型内に芯材をセットし、発泡材料を注入する、いわゆる注型発泡によることが通常であり、引用例の「ファンデーション~表皮シートを間隔を設けて配置して発泡空間を形成させ該空間内に発泡性の合成樹脂原液を注入し発泡させる」という成形方法は、このような通常の成形方法を意味しているものと考えられるのであって、しかも、それ以外の成形方法を想定することは困難である(その他の方法として、芯材、発泡体、表皮等を別個に製造し、後加工で張り合わせる方法も良く知られているが、引用例の方法がこのような方法によるものでないことは明らかである)から、相違点(1)は、実質的な相違点ということはできない。
〈2〉 相違点(2)について
引用例にはこの点について具体的開示があるということはできないけれども、表皮等を有する車内車両内装部品等の発泡成形品の注型発泡においては、表皮シートを金型間に挟持して固定することが良く知られ、一般的に行われている方法である(例えば、実開昭50-134814号公報参照、また、本願明細書において従来より行われている方法とされる第4図も同じ方法である)ことを考慮すれば、引用例における延長した薄膜を固定するために、上下の金型間に挟持しようとすることは、当業者が容易に想到し得ることであると認められる。
〈3〉 また、これらの点によって奏される本願発明の効果も、当業者が普通に予測し得る程度のものであると認められる。
〈4〉 なお、請求人ら(原告ら)は、引用例第2図に基づいて、薄膜2の外縁(延長部)3は発泡体のはみ出し部分6を受ける部分とされるにすぎないと主張しているが、第2図に示されるものが、どのような技術的手段によって製造されるものかについて、具体的な主張をしているわけでもなく、上下金型を使用する注型発泡では、延長部3を金型に挟持すること以外の固定方法は考え難いから、上記の認定、判断を覆すものではない。
(5) したがって、本願発明は引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定に該当し特許を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)のうち、引用例における「ファンデーション」、「合成樹脂の薄膜」が、それぞれ本願発明の「芯材」、「被膜」に相当すること、及び、相違点(1)、(2)の認定は認めるが、その余は争う。同(4)〈1〉のうち、車両内装部品である芯材付発泡成形品を製造するためには、上型及び下型からなる発泡成形金型を使用して、該金型内に芯材をセットし、発泡材料を注入する、いわゆる注型発泡によることが通常であることは認めるが、その余は争う。同(4)〈2〉のうち、表皮等を有する車内車両内装部品等の発泡成形品の注型発泡については、表皮シートを金型間に挟持して固定することが良く知られ、一般的に行われている方法であることは認めるが、その余は争う。同(4)〈3〉、〈4〉は争う。同(5)は争う。
審決は、本願発明と引用例記載の発明との一致点の認定、両者の相違点(1)、(2)に対する判断、及び、本願発明の効果についての判断をいずれも誤って、本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) 一致点の認定の誤り(取消事由1)
審決は、本願発明における「被膜を芯材に被着する」構成が、引用例に記載の「薄膜でファンデーションを密接状に覆う」という構成と同じであるとしたうえ、本願発明と引用例記載の発明とは、審決摘示の相違点(1)、(2)以外の構成において一致している旨認定しているが、以下述べるとおり誤りである。
「被着」自体の本来の語義は、「被」の「おおう」という字義と「着」の「くっつく」という字義から、「おおってくっつける」と解されるべきであり、かかる解釈は、本願明細書の記載とも矛盾するものではない。すなわち、本願明細書の特許請求の範囲には、「被膜を介して所定の発泡体層を該芯材の一方の側に一体的に形成する」と記載されており、かかる記載が、芯材に被膜が一体的に接着されて発泡体層が芯材から取外し不能に一体化されていることを前提とするものであることは、本願明細書の発明の詳細な説明中の「接着剤など適当な手段にて被着せしめられた被膜」との記載(甲第2号証第4欄32行、33行)からも明らかなところである。要するに、本願発明における「被着」は、接着剤(などの適当な手段)にて実現されるものであるから、そのような接着剤による被着が離脱不能に固着せしめることを意図するものであることは、当業者にとって自明である。また、「適当な手段」も「接着剤などの適当な手段」とされているところから、接着剤に均等な手段を意図するものであることは明白である。
そして、本願発明においては、芯材の穴を被膜によって覆蓋し、被膜を芯材に対して被着せしめたことから、被膜が穴の周縁部において芯材に固着されて穴を展張状態で覆うこととなり、発泡圧が作用した場合でも、芯材に対して被膜が移動することが阻止されて、穴を覆う被膜が発泡圧で穴の外方に押し出されるようにして膨らんだりすることがなく、展張状態に維持され得るのであり、その結果、略一定の発泡空間容積を確保することができて、注入量に見合う発泡材料の発泡が確実に行われ、発泡ムラ等が防止されるものである。
これに対し、引用例に記載の「薄膜でファンデーションを密接状に覆う」という構成は、単に、ファンデーションとの間に隙間が生じないように表面に沿って薄膜を配することを意味するにすぎず、上述のごとき「被着」(具体的には、薄膜をファンデーションに対して取外し不能に一体的に接着する)の意味を積極的に排除するものであり、このことは、引用例が「かくて仕上げを施した後ファンデーションに対し全面又は要部で螺子により或は接着剤で固定してクラッシュパッドを形成する。」(甲第3号証第2欄1行ないし4行)として、螺子や接着剤にて後固定せしめることを意図していること、また、引用例における「従来の方法によるときは発泡が部分的に不具合で空洞を生じたときには該部分に相当するファンデーションに孔明し、これから注射器様の器具で発泡液を注入し補修することが行われたが、本発明によるときは合成樹脂薄膜においてファンデーションから分離することにより該薄膜を透して発泡液を注入することができる」との記載(同号証第2欄28行ないし36行)から明らかである。
また、引用例に記載されているような、単に、ファンデーションの表面を薄膜で覆っただけの構成では、ファンデーション表面上での薄膜の動きが許容されることから、発泡圧が作用した際、穴を覆う薄膜が、発泡圧によって穴の外方に押し出されるようにして膨らんでしまうことが避けられないことは容易に予測されるところであり、当然に、穴からの薄膜の膨らみ分だけ発泡空間容積が増大することから、注入量に見合う発泡材料の発泡が実現されず、発泡ムラ等が発生し易く、本願発明によって達成される均一な発泡効果が発揮されないことは明らかである。
以上のとおり、引用例に記載の技術は、発泡不良の発生を当然のこととして認めた上で、発泡不良部分の補修を容易にすることをその目的とするものにすぎず、発泡不均一や発泡体層の硬度ムラ等の製品不良の発生そのものを防止するという、本願発明の目的については、何らの記載も示唆もないのであって、本願発明における「被膜を芯材に被着する」構成が、引用例に記載の「薄膜でファンデーションを密接状に覆う」という構成と相違していることは明らかである。
(2) 相違点(1)に対する判断の誤り(取消事由2)
引用例には、上型もしくは下型に対して芯材たるファンデーションや被膜たる薄膜を如何にセットせしめるかについて何らの技術的開示も、示唆もなされておらず、引用例の記載、更にはその具体的態様を示す図面からは、どのような形態において注型発泡が適用されているのか、当業者においても全くもって理解することができない。
上型と下型とを用いた注型発泡に際しては、上型及び下型からなる発泡成形金型を閉じて成形されることとなるが、引用例記載のものにあっては、その第2図に示されているように、はみ出し部分6が自由表面を有しており、かつ、はみ出し部分6がファンデーション端部と表皮端部間の発泡体部分の厚さよりも大きな形状を有しているところから、少なくともはみ出し部分6の存在位置には、閉じられた上型及び下型の型合わせ面が存在しているとは到底認められない。しかも、ファンデーションを挟んで上型と下型の型合わせ面を構成することは、ファンデーションの成形寸法誤差等に起因して型合わせ面間に隙間ができやすいことから現実的に採用されるものでなく、したがって、ファンデーション端部と表皮端部間の発泡体部分においても、閉じられた上型及び下型の型合わせ面が存在しているとは認められない。
上記のとおり、引用例記載のものにおいては、どこに上型と下型の型合わせ面が位置しているのかさえ明らかでない以上、閉じられた発泡成形金型の存在を認識することは当業者といえども不可能であり、車両内装部品である芯材付発泡成形品を製造するためには、いわゆる注型発泡によることが通常であるとしても、そのことから直ちに、引用例記載のものにおいても、そのような注型発泡が採用されているとすることはできない。
したがって、相違点(1)に対する審決の判断は誤りである。
(3) 相違点(2)に対する判断の誤り(取消事由3)
相違点(2)に対する判断は、引用例記載の発明において本願発明と同様の発泡成形金型が採用されていることを前提とするものであるが、その前提が誤っていることは上記(2)で述べたとおりである。
しかも、従来から行われている表皮シートの挟持は、単に、表皮シートの周縁部を、発泡成形を実施する前の型合わせ時に表皮シートが型内に落ち込まないように保持するために挟持するにすぎないものであるから(甲第4号証の1、2にも、表皮シートの周縁部に対して保持に必要な挟持力以上の、発泡材料の発泡に際して生じる圧力に対抗し得る程の挟持力を及ぼすような記載はない。)、本願発明のように、発泡時に発泡成形空間から発泡材料が洩れないようにするために、被膜と金型の間に密閉された発泡成形空間を形成するという特別の目的をもって、表皮シートとは機能の全く異なる被膜の周縁部を上下の金型間で挟持する構成、すなわち、発泡時に発泡圧に対抗して被膜の挟持状態を維持し得るだけの挟圧力を上下の金型間に及ぼすような構成を想到することは不可能である。仮に、引用例記載のものにおいて、表皮シートの周縁部を金型間で挟持する技術を適用し、薄膜を上下の金型間で挟持する構成を採用し得たとしても、かかる薄膜周縁部の挟持は、単に、薄膜が型内に落ち込まないように保持するだけのものにとどまり、発泡操作において生じる圧力が型合わせ面に作用することにより、被膜の挟持による密閉状態が維持されずに、型合わせ面から発泡材料が洩れてしまうことが避けられ得ないことは明らかである。
審決は、本願発明の上記のような目的を何ら考慮せず、単に引用例記載の薄膜の周縁部を、その固定だけを目的として金型間で挟持させることが容易であるとしているにすぎないから、相違点(2)に対する判断は誤りである。
(4) 効果についての判断の誤り(取消事由4)
本願発明は、「芯材の発泡体層が形成される側の面に被着して芯材を覆う被膜を存在せしめる」構成を採用したことにより、「芯材に設けられているボルト穴や成形穴、開口穴など、更には該芯材の端部周囲が該被膜にて覆われる」(本願公告公報第5欄9行ないし12行)こととなり、そのような芯材の穴が被膜で覆蓋され、しかも発泡時にも、穴を覆う被膜が芯材に被着されていることから、該被膜が発泡圧で膨らんで発泡空間容積を増大させるようなことがなく、略一定の発泡空間容積内で発泡が行われて(同公報第7図ないし第9図)、「注入量に見合う発泡材料の発泡が確実に行なわれ得て均一な発泡が達成され、以て従来の如き不均一な発泡による空洞の発生や硬度ムラ等による製品不良の問題を完全に解消し、不良品率の著しい低下を図り得た」(同公報第5欄31行ないし35行)という、顕著な効果を奏するものである。
これに対し、引用例記載の発明のように、ファンデーションに薄膜を被着することなく、単にファンデーションの表面を薄膜で覆っただけの構成では、ファンデーション表面上での薄膜の動きが許容されることから、発泡圧が作用した際、穴を覆う薄膜が発泡圧によって穴の外方に押し出されるようにして膨らんでしまうことが避けられないことは容易に予測されるところであり、当然に、穴からの薄膜の膨らみ分だけ発泡空間容積が増大することから、注入量に見合った発泡材料の発泡が実現され得ず、発泡ムラ等が発生し易く、本願発明によって達成される均一発泡効果が得られないことは明らかである。
したがって、本願発明の効果について、当業者が普通に予測し得る程度のものであるとした審決の判断は誤りてある。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告ら主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1について
本願明細書の記載をみても、「接着剤など適当な手段にて被着せしめられた」(本願公告公報第4欄32行)とあるだけであり、本願発明の目的、効果を勘案しても、「被着」を原告ら主張のように「離脱不能に固着する」という意味に限定解釈すべき根拠はない。すなわち、「被膜を芯材に被着する」構成は、芯材付発泡製品の製造に際して、「芯材裏面への発泡材料の侵入を阻止して、発泡材料の発泡不具合や製品汚れなどの問題を効果的に解消せしめ」(同公報第3欄44行ないし第4欄2行)という目的を達成し、「発泡材料の洩れに基因する発泡不具合や製品汚れなどの問題が完全に解消される」(同公報第4欄18行ないし20行)という効果を有するに必要な機能に対応するはずであるが、この機能は、詰まるところ、芯材裏面への発泡材料の侵入と、それと表裏の関係にある発泡材料の洩れ防止の機能であって(発泡材料の発泡不具合等の解消は、上記機能に派生する2次的なものにすぎない。)、この機能に対応する構成としての「被膜を芯材に被着する」構成における「被着」の意味は、引用例における「薄膜でファンデーションを密接状に覆う」という構成における「密接状に覆う」と同じ意味で十分であって、あえて、原告らが限定的に解釈する「離脱不能に固着する」意義を有する「被着」である必要はない。
原告らは、本願明細書中の「接着剤(などの適当な手段)によって実現されるもの」との記載に基づいて「被着」の意味を限定して解釈するが、本願明細書には「何れにしても該芯材16面が被着18にて覆われるようになればよい。」(本願公告公報第5欄3行、4行)と記載されているように、必ずしも接着に限定されないものとみるべきである。
したがって、本願発明の「被膜を芯材に被着する」構成は、引用例の「薄膜でファンデーションを密接状に覆う」構成と相違する旨の原告らの主張は相当でない。
(2) 取消事由2について
いわゆる注型発泡においては、本願発明において用いられるような、上型及び下型からなる発泡成形金型を閉じて成形することが、周知かつ慣用の技術手段であって、特に芯材付発泡製品の製造においては、このようなもの以外の技術手段を採用するものとは通常考えられない。
引用例記載の図面第2図は、引用例記載の成形方法による通常の形態として、図面に記載のようなはみ出し部分が発生するという説明図ではなく、はみ出した場合、その対処をどうするかについての説明図と考えることが妥当である。また、はみ出し部分6は、閉じた金型からはみ出した部分を誇張して示していると解釈するのが妥当である。
したがって、はみ出し部分6の存在位置には、閉じられた上型と下型の型合わせ面が存在しているとは認められないとする原告らの主張は相当でない。
また、一般に、上型と下型間にファンデーションがある場合、ファンデーションの形状に応じて発泡体が洩れないように型合わせを工夫することは当業者であれば当然の技術常識であり、現実に可能な範囲で減少させてもなお残る程度の成形寸法誤差に起因する隙間が生じることがあっても、ファンデーションを挟んで上型と下型の型合わせ面を構成することが困難であるとは考えられず、この点についての原告らの主張は相当でない。
(3) 取消事由3について
被膜の周縁部を上下型間で挟持するようにした技術は、甲第4号証の1にもあるように公知の技術であり、いわゆる注型発泡にあっては通常の挟持による固定方法を採用することは、当業者が容易になし得るものと考えるのが妥当である。
原告らは、引用例記載のものにおいては、薄膜を上下の金型間で挟持する構成を採用し得たとしても、かかる薄膜周縁部の挟持は、単に、薄膜が型内に落ち込まないように保持するだけのものにとどまり、発泡操作において生じる圧力が型合わせ面に作用することにより、被膜の挟持による密閉状態が維持されずに、型合わせ面から発泡材料が洩れてしまうことが避けられ得ないことは明らかである旨主張する。
しかし、上型、下型とからなる発泡成形金型を使用するいわゆる注型発泡において、型合わせ状態を維持するための挟持手段が要求される機能からみると、薄膜がある、ないにかかわらず、型合わせ面が発泡時であっても、離れないような機能を満足する構成をとる必要があることは、当業者の技術常識から明らかであって、単に、薄膜が型内に落ち込まないように保持するだけのものにとどまるものとの原告らの見解は現実的ではなく、そのような見解を前提とした上記主張は妥当ではない。
(4) 取消事由4について
本願発明の出願時の技術常識からみると、発泡材料が洩れることを防止することは、一般の発泡成形においては自明の技術的課題にすぎない。そして、当業者が発泡成形に際し、その洩れと表裏の関係にある発泡不具合及び製品汚れなどの問題を十分認識していることは技術常識といえるものである。したがって、芯材を使用する本願発明のような場合であっても、発泡材料の洩れを防止することは自明の技術的課題であり、発泡不具合の発生そのものを防止し、更にそれによって生ずる周縁部におけるバリ発生を防止することを解決課題と認識することは、当業者において当然のことといわざるを得ない。
そして、引用例記載のものにおいても金型を密閉していると考えられる以上、発泡材料の洩れ防止効果、及びこれに伴う、発泡材料の注入量に見合う確実、均一な発泡等、本願発明と同様の効果を奏するものというべきであり、少なくとも本願発明の効果は当業者が容易に予測し得る程度のものというべきである。
したがって、本願発明の効果についての審決の判断に誤りはない。
第4 証拠
証拠は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
そして、引用例に審決摘示の記載があること、本願発明と引用例記載の発明との間に審決認定の相違点(1)、(2)があることについても、当事者間に争いがない。
2 本願発明の概要
甲第2号証(本願公告公報)によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、「本発明は芯材付発泡製品の製造法に係り、特に芯材付発泡製品の製造に際して、芯材裏面への発泡材料の侵入を効果的に防止せしめ得る方法に関するものである。」(同公報第2欄2行ないし5行)、「本発明は、・・・その目的とするところは芯材裏面への発泡材料の侵入を阻止して、発泡材料の発泡不具合や製品汚れなどの問題を効果的に解消せしめた、芯材付発泡製品の製造法を提供することにある。」(同公報第3欄42行ないし第4欄3行)、「かかる目的を達成するために、本発明は、発泡成形金型にセットされた芯材の発泡体層が形成される側の面に被着して該芯材を覆う被膜を存在せしめると共に、該被膜の周縁を該金型を構成する上型と下型とによって挟持しつつ、所定の発泡材料を発泡せしめることにより、該被膜を介して所定の発泡体層を該芯材の一方の側に一体的に形成するようにしたことにあり、これによって発泡成形金型(一般に上型)にセットされた芯材は該被膜にて被覆された状態下において発泡成形に供されることとなるため、該芯材に穴や開口部があっても、また金型に対して該芯材が密着されていなくても、該芯材の裏側、換言すれば金型と芯材との間に発泡材料が侵入するようなことは全くないのであり、それ故発泡材料の洩れに基因する発泡不具合や製品汚れなどの問題が完全に解消されるに至ったのである。」(同公報第4欄4行ないし20行)と記載されていることが認められる。
3 取消事由に対する判断
(1) 取消事由1について
引用例における「ファンデーション」、「合成樹脂の薄膜」がそれぞれ本願発明の「芯材」、「被膜」に相当することは当事者間に争いがないが、原告らは、本願発明における「被膜を芯材に被着する」構成が、引用例に記載の「薄膜でファンデーションを密接状に覆う」という構成と同じであるとした審決の認定は誤りである旨主張するので、この点について検討する。
〈1〉(a) 本願発明の特許請求の範囲に記載されている「被着」なる用語の一般的な語意は明らかでなく、特許請求の範囲の記載から、「被着」のもつ意味を一義的かつ明確に理解することもできないから、本願明細書の発明の詳細な説明を参酌することとする。
甲第2号証によれば、本願発明は、従来の芯材付発泡製品、すなわち、「上型5と下型6からなる発泡成形金型を用いて、該下型6内に予め形成された表皮(材料)4をセットする一方、上型5内に出入可能なピン7などを用いて芯材1を一時的に固定し、セットせしめた後(第2図)、第3図に示す如く注入装置(ミキシングヘッド)8からウレタンなどの発泡材料9を金型内に注入せしめ、その後上型5と下型6とを閉じてオーブン(例えば40~60℃)内にて加硫(発泡)を行なわしめることにより(第4図)、第5図の如き製品形状の発泡成形品を得ている」(本願公告公報第2欄24行ないし第3欄8行、別紙図面1の第2図ないし第5図参照)ものについて、「このような発泡成形手法においては、芯材1と上型5とを物理的に完全に密着させることが出来ず、従って芯材1裏面(発泡体層3が形成されない側の面)へ発泡材料が廻り込み、所謂ウレタン洩れを惹起し、第5図の如く芯材1裏側にバリ10を発生せしめている。このため、相手部材との組付上必要な箇所(例えばボルト2部分など)にあっては、洩れ出たバリ10を除去しなければならず、またかかる発泡材料の洩れによって発泡不均一となり、第5図に示す如き空洞11が発生したり、発泡体層3の硬度ムラ等が惹起されて、製品不良率を著しく高めているのである。更に、芯材1としては、ウレタンなどの発泡材料と本来発泡時によく接着し得るように材料が選択されているため、かかる洩れ出たバリ10がバリ取り作業によっても完全に除去され得ず、それ故グラブドアなどの製品裏面にも外観機能が要求される製品にあっては、芯材の上に裏蓋をする必要がある等の問題を内在している。また、かかる芯材1の裏面側への発泡材料の洩れによって、上型5の離型が悪くなり、製品の変形不良が発生する問題があり、このため上型5面に対して離型剤を多用している。加えて、芯剤1に必然的に設けられる穴1bなどからの発泡材料の洩れを阻止するために、かかる穴1bなどに対しては、第3図に示す如きテープ12を貼ることも試みられている。しかしながら、このような離型剤の塗布やテープ12の貼付けは前記洩れの問題を根本的に解消させるものでない一方、それらの作業の挿入によって発泡成形工程の作業工数を増加せしめ、また面倒なものと為し、ひいては製品コストを上昇せしめる問題を惹起する。」(同公報第3欄10行ないし41行)との知見に基づき、「芯材裏面への発泡材料の侵入を阻止して、発泡材料の発泡不具合や製品汚れなどの問題を効果的に解消せしめた、芯材付発泡製品の製造法を提供すること」(同公報第3欄44行ないし第4欄3行)を目的として、「発泡成形金型にセットされた芯材の発泡体層が形成される側の面に被着して該芯材を覆う被膜を存在せしめると共に、該被膜の周縁を該金型を構成する上型と下型とによって挟持しつつ、所定の発泡材料を発泡せしめることにより、該被膜を介して所定の発泡体層を該芯材の一方の側に一体的に形成するようにした」(同公報第4欄5行ないし11行)ものであり、この構成により、「発泡成形金型(一般に上型)にセットされた芯材は該被膜にて被覆された状態下において発泡成形に供されることとなるため、該芯材に穴や開口部があっても、また金型に対して該芯材が密着されていなくとも、該芯材の裏側、換言すれば金型と芯材との間に発泡材料が侵入するようなことは全くないのであり、それ故発泡材料の洩れに基因する発泡不具合や製品汚れなどの問題が完全に解消されるに至った」(同公報第4欄12行ないし20行)ものであることが認められる。
ところで、甲第2号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、「上型5にセットされる芯材16は、その一方の側(発泡体層17が形成される側)の面に接着剤など適当な手段にて被着せしめられた被膜18を有している。この被膜(フィルム)18は、・・・予め真空形成法などの方法によって該芯材16を覆うように形成され、被着せしめられており、・・・。なお、かかる芯材16面上への被着18の形成は、別途成形された被膜を芯材に貼り付けたり、熱その他の手段にて融着せしめたりする方法の他、該芯材面に樹脂液をスプレーしたり、樹脂液中に浸漬したりする方法などによっても可能であり、何れにしても該芯材16面が被着18にて覆われるようになればよい。」(本願公告公報第4欄30行ないし第5欄4行)、「所定の芯材を金型(上型)にセットした後、該芯材上に所定の被膜を被着、形成せしめる手法なども好適に採用することが出来る。その場合において、金型にセットした芯材に対して所定の被膜を被着乃至は形成するには、被膜の貼り込み法や熱その他による融着法、更にはスプレー法等が採用される。」(同公報第7欄18行ないし第8欄4行)と記載されていることが認められる。
上記記載によれば、本願発明の特許請求の範囲に記載されている「芯材の発泡体層が形成される側の面に被着して芯材を覆う被膜を存在せしめる」というのは、芯材の発泡体層が形成される側の面に芯材を覆うように、被膜を接着剤で接着したり、熱その他により融着したり、あるいは芯材面に樹脂液をスプレーして被膜自体を形成することなどをいうものであって、被膜を芯材から取り外すことを前提としない態様のものとして、被膜を芯材に接着、融着したり、あるいは被膜自体を形成しているものであると認めるのが相当である。
ところで、上記認定の従来の芯材付発泡製品の構成とその問題点、本願発明の目的及び効果、並びに本願明細書中の上記「何れにしても該芯材16面が被着18にて覆われるようになればよい。」との記載に照らすと、本願発明において、「芯材の発泡体層が形成される側の面に被着して芯材を覆う被膜を存在せしめる」という構成が、「該被膜の周縁を上型と下型にて挟持して」という構成と相まって、上記認定の効果をもたらすものとして技術的意義を有する事項は、芯材を覆う被膜が存在すること、すなわち、被膜が芯材を全体的に覆っていることであって、被膜を存在せしめる「被着」が接着等によって取り外しを前提としていない態様のものであること自体は、上記目的及び効果との関係においては格別技術的意義を有するものとは認め難い(これに反する原告らの主張については、後記〈2〉において検討する。)。
(b) 甲第3号証(引用例)には、「従来の方法によるときは発泡が部分的に不具合で空洞を生じたときには該部分に相当するファンデーションに孔明し、これから注射器様の器具で発泡液を注入し補修することが行われたが本発明によるときは合成樹脂薄膜においてファンデーションから分離することにより該薄膜を透して発泡液を注入することができるのでその作業を容易にしきめ細かい補修が容易に行われる等の優れた効果がある。」(第2欄28行ないし末行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、引用例記載のものにおいて、合成樹脂の薄膜はファンデーションから分離することが可能なものとして覆われるものであると認められる。
ところで、引用例には、「従来例えば第3図に示すようにファンデーション1’の表面に直接表皮シート4’を型合せし、その間にウレタンフォーム等の発泡液5’を注入し、同時発泡により自動車のインストルメントパネル等のクラシュパッドを成形させることは公知であるが、・・・その発泡にあたりインストルメントパネルの外周や、これに設けらるる計器窓孔やくぼみ内に発泡液がはみ出し勝ちでありこのはみ出し部分6’は第3図に示すようにファンデーションに接着しその除去は非常にやっかいな手作業によらねばならない等の不都合があった。然るに本発明によるときはファンデーションの表面に合成樹脂の薄膜2を被覆したため、発泡液のはみ出したものはファンデーションに附着することなく薄膜の外周縁部と共に容易に除去することができてその作業を極めて容易にした効果がある。」(第2欄5行ないし25行)と記載されていることが認められ、この記載と引用例の第2図、第3図(別紙図面2参照)によれば、引用例記載のものにおける「ファンデーションの表面を合成樹脂の薄膜で密接状に覆う」構成は、発泡材料が洩れてファンデーションの裏側に廻り込むことを防止する効果をもたらすものであることが認められる。
(c) 以上のとおり、本願発明における「被膜を芯材に被着する」構成も、引用例に記載の「薄膜でファンデーションを密接状に覆う」構成も、被膜(薄膜)が芯材(ファンデーション)を密接状に覆い、発泡材料が洩れて芯材(ファンデーション)の裏側に廻り込むことを防止するという機能を果たすという点では共通しており、本願発明において被膜が芯材に接着等していて取り外しを前提としない態様のものであること自体に格別の技術的意義は存しないのであるから、両者は同じであるとした審決の認定に誤りはないものというべきである。
〈2〉 原告らは、本願発明においては、芯材の穴を被膜によって覆蓋し、被膜を芯材に対して被着せしめたことから、被膜が穴の周縁部において、芯材に固着されて穴を展張状態で覆うこととなり、発泡圧が作用した場合でも、芯材に対して被膜が移動することが阻止されて、穴を覆う被膜が発泡圧で穴の外方に押し出されるようにして膨らんだりすることがなく、展張状態に維持され得るのであり、その結果、略一定の発泡空間容積を確保することができて、注入量に見合う発泡材料の発泡が確実に行われ、発泡ムラ等が防止されるものであるのに対し、引用例に記載されているような、単に、ファンデーションの表面を薄膜で覆っただけの構成では、本願発明の上記のような効果が得られないとして、この点から、本願発明における「被膜を芯材に被着する」構成と引用例に記載の「薄膜でファンデーションを密接状に覆う」構成との相違を主張するので、この点について検討する。
本願発明における「芯材の発泡体層が形成される側の面に被着して芯材を覆う被膜を存在せしめる」という構成が、芯材に被膜を接着剤で接着したり、熱その他により融着したり、あるいは芯材面に樹脂液をスプレーして被膜自体を形成することなどをいうものであって、被膜を芯材から取り外すことを前提としない態様のものと認め得ることは前記のとおりである。
しかし、本願公告公報を精査しても、本願発明において、注入量に見合う発泡材料の発泡が確実に行われ、発泡ムラ等が防止されるのが、原告ら主張のような技術的事由により発泡空間容積が確保されることによるものであるといった趣旨の開示はもとより、このことを示唆する記載も存しない。本願明細書には、「該芯材に穴や開口部があっても、また金型に対して該芯材が密着されていなくても、該芯材の裏側、換言すれば金型と芯材との間に発泡材料が侵入するようなことは全くないのであり、それ故発泡材料の洩れに基因する発泡不具合や製品汚れなどの問題が完全に解消されるに至ったのである。」(本願公告公報第4欄14行ないし20行)、「芯材16に形成されている各種の孔部(ボルト穴、成形穴、開口部など)や芯材16端部の上型5との隙間などから発泡材料9が芯材16の裏側に洩れて廻り込むようなことは全く無くなったのであり、そしてそれによって注入量に見合う発泡材料の発泡が確実に行なわれ得て均一な発泡が達成され、以て従来の如き不均一な発泡による空洞の発生や硬度ムラ等による製品不良の問題を完全に解消し、不良品率の著しい低下を図り得たのである。」(同公報第5欄26行ないし35行)、「芯材16裏側へのウレタン等の発泡材料の洩れが零となり、以て前述の如き不均一な発泡による空洞、硬度ムラ等の不良発生の絶滅を可能ならしめた」(同公報第6欄10行ないし13行)と記載されており、これらの記載によれば、注入量に見合う発泡材料の発泡が確実に行われず、そのために不均一な発泡による空洞の発生や硬度ムラ等が生じるのは、発泡材料の洩れに起因するものであり、本願発明においては、原告ら主張のような技術的事由による発泡空間容積の確保によってではなく、発泡材料の洩れがなくなったことによって、上記のような各種の問題点が解消されたものであることが認められる。
したがって、原告らの上記主張は採用できない。
〈3〉 以上のとおりであって、取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2について
〈1〉 引用例に「ファンデーションの表面を合成樹脂の薄膜で密接状に覆い且そのファンデーションの周縁に上記合成樹脂の薄膜を延長させたものの外面に予め成形した表皮シートを間隔を設けて配置して発泡空間を形成させ該空間内に発泡性の合成樹脂原液を注入し発泡させることを特徴とする自動車のインストルメントパネル等のクラッシュパッドの成形方法。」が記載されていること、及び、車両内装部品である芯材付発泡成形品を製造するためには、上型及び下型からなる発泡成形金型を使用して、金型内に芯材をセットし、発泡材料を注入する、いわゆる注型発泡によることが通常であることは、当事者間に争いがない。
上記のとおり、引用例記載の成形方法は、発泡空間に発泡性の合成樹脂原液を注入して発泡成形するものであり、芯材付発泡成形品を製造する際の製造法としては注型発泡が通常であることからすると、引用例記載のものにおいても注型発泡が採用されているものと考えるのが相当であって、注型発泡以外の方法が採用されているものと想定することは困難である。
したがって、相違点(1)に対する審決の判断に誤りはない。
〈2〉 原告らは、引用例記載のものにあっては、その第2図に示されているように、はみ出し部分6が自由表面を有しており、かつ、はみ出し部分6がファンデーション端部と表皮端部間の発泡体部分の厚さよりも大きな形状を有しているところから、少なくともはみ出し部分6の存在位置には、閉じられた上型及び下型の型合わせ面が存在しているとは到底認められず、しかも、ファンデーションを挟んで上型と下型の型合わせ面を構成することは、ファンデーションの成形寸法誤差等に起因して型合わせ面間に隙間ができやすいことから現実的に採用されるものでなく、したがって、ファンデーション端部と表皮端部間の発泡体部分においても、閉じられた上型及び下型の型合わせ面が存在しているとは認められないとして、引用例記載のものにおいては、どこに上型と下型の型合わせ面が位置しているのかさえ明らかでない以上、閉じられた発泡成形金型の存在を認識することは当業者といえども不可能であって、注型発泡が採用されているとすることはできない旨主張する。
甲第3号証によれば、引用例には「ファンデーション1の外周にはみ出したはみ出し部分6は薄膜2の外縁3とともに刃物等によって除去する。」(第1欄36行ないし第2欄1行)、「発泡液のはみ出したものはファンデーションに附着することなく薄膜の外周縁部と共に容易に除去することができてその作業を極めて容易にした効果がある。」(第2欄21行ないし25行)と記載され、第2図にははみ出し部分6が示されていること(別紙図面2参照)が認められ、これらによれば、引用例記載の成形方法においては、発泡液のはまみ出し部分(バリ)が生じることが当然の前提とされているものと認められる。
しかし、前記のとおり、芯材付発泡成形品を製造するためには、いわゆる注型発泡によることが通常であり、引用例記載のものにおいても、注型発泡以外の方法が採用されているとは考えられず、上記はみ出し部分も、上型と下型間の密着性が発泡圧に対してバリの発生を防止し得る程度のものではなかったため、上型と下型の型合わせ面に対する発泡圧の作用により、発泡ガスと共に発泡液が逃げて形成されたものと解するのが相当であって、はみ出し部分が生じていることをもって、引用例記載の方法が上型及び下型からなる発泡成形金型を使用して成形するものであることを否定する根拠とすることはできない。
また、上型と下型間にファンデーションがある場合、ファンデーションの形状に応じて発泡体が洩れないように型合わせの工夫をすることは、当業者において当然考慮する程度のことと考えられるし、成形寸法誤差等に起因する型合わせ面の隙間が生じることがあっても、ファンデーションを挟んで上型と下型の型合わせ面を構成することが困難であるとは認め難い。
したがって、原告らの上記主張は採用できない。
〈3〉 以上のとおりであって、取消事由2は理由がない。
(3) 取消事由3について
〈1〉 引用例記載の発明は、「ファンデーションの周縁に合成樹脂の薄膜を延長させた」もの、すなわち、薄膜がファンデーションの周縁に延長部を有するものである。
前記のとおり、引用例記載の方法は、上型及び下型からなる発泡成形金型を使用して注型発泡するものであるが、表皮等を有する車内車両内装部品等の発泡成形品の注型発泡においては、表皮シートを金型間に挟持して固定することがよく知られ、一般的に行われている方法であることは当事者間に争いがない。
しかして、表皮と薄膜とでは金型内における配置が異なるが、表皮シートの延長部を上下の金型で挟持して固定することが周知、慣用の技術であるから、引用例記載のものにおいて薄膜の延長部を固定するために上下の金型間で挟持しようとすることは当業者が容易に想到し得ることと認めるのが相当である。
したがって、相違点(2)に対する審決の判断に誤りはないものというべきである。
〈2〉 原告らは、従来から行われている表皮シートの挟持は、単に、表皮シートの周縁部を、発泡成形を実施する前の型合わせ時に表皮シートが型内に落ち込まないように保持するために挟持するにすぎないものであるから、本願発明のように、発泡時に発泡成形空間から発泡材料が洩れないようにするために、被膜と金型の間に密閉された発泡成形空間を形成するという特別の目的をもって、表皮シートとは機能の全く異なる被膜の周縁部を上下の金型間で挟持する構成、すなわち、発泡時に発泡圧に対抗して被膜の挟持状態を維持し得るだけの挟圧力を上下の金型間に及ぼすような構成を想到することは不可能であるところ、審決は、本願発明の上記のような目的を何ら考慮せず、単に引用例記載の薄膜の周縁部を、その固定だけを目的として金型間で挟持させることが容易であるとしているにすぎないから、相違点(2)に対する判断は誤りである旨主張するので、この点について検討する。
審決が、注型発泡において表皮シートを金型間に挟持して固定する方法が良く知られ、一般的であることの裏付けとして引用した実開昭50-134814号公報(甲第4号証の1)、及び同公報に係る実用新案登録願書のマイクロフィルム(甲第4号証の2)には、同各号証記載の挟持が発泡成形を実施する前の型合わせ時に表皮シートが型内に落ち込まないように保持する程度のものである旨の記載やこのことを示唆する記載はない。また、本願公告公報に記載されている芯材付発泡製品の製造法に関する従来例において、表皮を上下の金型間に挟持して固定しているが、表皮を介しての上型と下型の型合わせ面にはバリが発生していないことが認められるから(別紙図面1の第4図、第5図)、この挟持は、単に表皮が型内に落ち込まない程度のものではなく、発泡時に発泡圧に対抗して表皮の挟持状態を維持し得るだけの挟圧力を上下の金型間に及ぼしているものと認めるのが相当である。そして、本願出願当時、注型発泡においては、上型と下型の型合わせ面の接触を密にして、発泡材料の洩れ(バリの発生)、発泡の不具合等を防止することが当業者にとって基本的な課題であったことは、前記(1)に認定の事実からも窺えるところである。
そうすると、被膜の周縁を上型と下型とで挟持するについて、発泡成形を実施する前の型合わせ時に単に被膜が型内に落ち込まないように保持するためだけでなく、バリの発生、発泡の不具合等を防止し得るように発泡時に発泡圧に対抗して被膜の挟持状態を維持し得るだけの挟圧力を上下の金型間に及ぼすような構成を想到することは、当業者にとって格別困難であるとは認められない。
次に、本願発明においては、「被膜の周縁を上型と下型にて挟持」する構成が、「芯材の発泡体層が形成される側の面に被着して芯材を覆う被膜を形成せしめる」構成と相まって、芯材裏側への発泡材料の侵入を阻止して、発泡不具合や製品汚れなどの問題を解消するという効果を奏するものであるところ、相違点(2)について、「引用例における延長した薄膜を固定するために、上下の金型間に挟持しようとすることは、当業者が容易に想到し得ることであると認められる。」とした審決の説示は、当然上記の点を踏まえてなされたものと認めるのが相当であって、措辞必ずしも適切ではないとしても、その判断に誤りがあるとまでは認め難い。
したがって、原告らの上記主張は採用できない。
〈3〉 以上のとおりであって、取消事由3は理由がない。
(4) 取消事由4について
〈1〉 甲第2号証によれば、本願発明においては、(a)芯材裏面への発泡材料の侵入(洩れ)が阻止され、それによって注入量に見合う発泡材料の発泡が確実、かつ均一に行われ、不均一な発泡による空洞の発生や硬度ムラ等による製品不良の問題を解消した、(b)発泡材料の洩れ(バリ)を除去するのに要していた無駄な工数を解消し、発泡材料の上型からの離型をし易くするための離型剤の塗布も不要となった、(c)汚れ等の問題が排除されるため、芯材裏面をそのまま製品裏面とすることが可能となって、裏蓋を取り付ける必要がなくなった、(d)芯材と発泡体層との間に介在する被膜が機能上の構成層となるため、製品の撓み、破壊強度を向上せしめた、などの効果を奏するものであることが認められる。
しかし、本願出願当時、注型発泡においては、上型と下型の型合わせ面の接触を密にして、発泡材料の洩れやそれに起因する発泡の不具合等を防止することが当業者にとって基本的な課題であったものである上、本願発明の構成を採用することにより(このことが当業者において容易に想到し得るものであることは、叙上説示したところから明らかである。)、上記のような効果が得られることは容易に予測し得るところであるから、本願発明の上記効果は格別顕著なものということはできない。
したがって、本願発明の効果について、当業者が普通に予測し得る程度のものであるとした審決の判断に誤りはない。
〈2〉 原告らは、本願発明は、「芯材の発泡体層が形成される側の面に被着して芯材を覆う被膜を存在せしめる」構成を採用したことにより、「芯材に設けられているボルト穴や成形穴、開口穴など、更には該芯材の端部周囲が該被膜にて覆われる」こととなり、そのような芯材の穴が被膜で覆蓋され、しかも発泡時にも、穴を覆う被膜が芯材に被着されていることから、該被膜が発泡圧で膨らんで発泡空間容積を増大させるようなことがなく、略一定の発泡空間容積内で発泡が行われて、「注入量に見合う発泡材料の発泡が確実に行なわれ得て均一な発泡が達成され、以て従来の如き不均一な発泡による空洞の発生や硬度ムラ等による製品不良の問題を完全に解消し、不良品率の著しい低下を図り得た」という、顕著な効果を奏するものであるとして、引用例記載のものとの効果の相違を主張している。
しかし、上記主張が失当であることは、前記(1)〈2〉において説示したところにより明らかである。
〈3〉 以上のとおりであって、取消事由4は理由がない。
4 以上のとおり、原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく、原告らの本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)
別紙図面1
〈省略〉
〈省略〉
別紙図面2
〈省略〉